62:(200603)
少聞多想/62:初めて挑んだ英語
- ずいぶん昔のことだ。私が小学校を卒業した春休み、福島の山村の実家に「鹿皮のジャンバーを買って欲しい」という男が現れた。詳しくは覚えていないけれど、男は生活にも困っているようで、途中に寄った家でひどい仕打ちうけたと実名をあげて話した。それから長い会話が続いた。「そこまで言うならあなたを信用しよう」、そう言うと同情した父は祖母の小遣いまで借りてジャンバーを購入した。
- 男が帰ると、「これは本物だろうか」という話になる。ジャンバーに付いている今で言うタグなどを見てみるが、英語で書かれていて全く分からない。流行歌の歌詞半分が英語で書かれているような現在とは違い、英語を少しでも知っている家族は誰もいなかったのだ。
- そこで父は「小学校の卒業記念に貰った英語の辞書があるだろう。あれで調べてみろ」と私に茶色のジャンバーを預けて農作業に出かけた。私は生まれて初めて出会った英語に辞書で挑む。しかし、文法も語順も知らない私には歯が立たなかった。
- 英語が少しは分かるようになった後に、あれはクリーニングの注意書のタグだったのではないかと思った。鹿皮は偽物だったとも思う。そして、あれが初めて父に頼られた出来事だったのにも気が付いた。3月11日は父の命日。そんなことを思い出した。(堀)

